CHERRY PICK LIFE

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エンタメ大好きな医大生によるブログ

ジェラルディン・ブルックスによる歴史ロマンミステリ小説「古書の来歴」を紹介!

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画像はアマゾンからお借りしました。

こんにちは~チェリーです。

今回は「古書の来歴(原題 People of the Book)」という小説を紹介します。

 

ジャーナリスト兼ピュリッツァー賞作家による重厚な歴史ロマンミステリ小説です。

中世のスペインで作られたある稀覯本にまつわる激動の歴史を、ユダヤ教徒たちやその周囲の人々の視点から描いた一作。

 

普段私たちにあまりなじみのない地中海沿岸地域の歴史を知るきっかけにもなるし、登場人物たちの運命に想いをはせ、人間の心についても考えさせる傑作です。

 

また、ハードカバー版の装丁がとっても美しく神秘的。本作の内容を見事にあらわしています。

 

本好き、歴史好きの方はぜひ一度よんでみてください。

 

 

基本情報

 

あらすじ

ハンナはオーストラリア人の古書鑑定家。ある日、100年も行方不明だった「サラエボ・ハガダー」が発見されたと連絡を受け、すぐさまサラエボへと向かった。

ハガダーはユダヤ教の「過ぎ越しの祭り」で使われる祈りや詩編の書かれた書。偶像崇拝を禁止されていた中世ユダヤ教の書にしては珍しく、サラエボ・ハガダーは美しい細密画が多数描かれていることでも有名だった。それが1894年以来行方が分からなくなっていたのだ。

鑑定を行うハンナは、羊皮紙に挟まった蝶の羽の欠片に気づく。それを皮切りにハガダーに封印された歴史が紐解かれ始め、、、、、、、。

 

感想

ちょこっと解説

まず驚くのはこのハガダーは実在するということです。

筆者がボスニア紛争の取材をしている時、サラエボの国立博物が爆撃で破壊され、そこに所有されていたハガダーも行方不明となります。

やがて紛争が終わると、イスラム教徒の学芸員が砲撃からこの本を守り、銀行の金庫室に入れていたことが明らかになります。

また第二次世界大戦の時には、あるイスラムの学者が、ナチスからこの本をまもるため、山の中のモスクにハガダーを持って行って隠しました。

このような勇敢で誠実な行為があったおかげで、この本は今も存在しているんですね。

 

原題の"People of the Book"は、通常日本語で啓典の民と訳されます。

イスラム教では、聖書(The Book)をクルアーンに先立つ啓典とし、ユダヤ教徒キリスト教徒を「啓典の民」として保護すべき対象としています。

本作の中心となるサラエボ・ハガダーが作られたのは十四世紀半ばからコンビベンシアと呼ばれる、ユダヤ教徒キリスト教徒、イスラム教徒が比較的平和に共存していた時代にスペインでつくられました。

つまり、The Bookとは、これらの異なる宗教の人々を結び付けてきたハガダーと聖書の両方を指していると考えられるのではないでしょうか。

 

本作の舞台がボスニアであることも意味があります。

非常に長く複雑な歴史を持ち、様々な民族や宗教が入り組んだこの土地は、第二次世界大戦時に凄惨な民族同士の虐殺を経験しました。

その後旧ユーゴスラビアが誕生し、その構成共和国の一つボスニア・ヘルツェゴヴィナは、イスラム教を中心に、ユダヤ教キリスト教など多宗教、多民族がゆるやかに共存する国でした。

ところが、1990年に、ユーゴスラビアにとどまりたいセルビア人と独立を望むボシュニャク人とクロアチア人の間で緊張が広がります。そして独立が宣言されると、全土で戦いが始まり、再び「民族浄化」と称した差別や虐殺、強制収容、そして強姦や強制出産が行われます。

1995年、国連の調停で紛争は終結。現在のボスニアヘルツェゴビナが成立します。

現在治安は安定し観光客も多く訪れるようになったサラエボ。民族間の壁が解け、新たな歴史や文化をまた作っていくといいですね。

 

圧倒的な描写力

実際に現場を見てきたジャーナリストが書いているからでしょうか。各時代の街や人々の描写が非常に精緻でリアルです。

まるで自らが中世から現代にいたるまでのヨーロッパを旅している気分になります。

蝶の羽、、失われた銀の留め金、ワインの染み、海水の跡、謎の白い毛、、、、、

これらにまつわる歴史が明らかになっていく過程はミステリ好きにはたまりません。

 

また優秀な主人公ハンナの一人の女性としての悩みや恋も描かれていて、本作が読者によりリアルに感じられるようになっています。

そのハンナ自身もハガダーとユダヤの歴史に大きく関わるようになっていって、、、、、、、

 

その他の登場人物も、それぞれの時代で彼らなりに必死に生き延びてきたのですよね。

誰かひとりでもいなかったら、ハガダーは、迫害や戦争、焚書の困難の中生き残ることはなかったでしょう。

一人の悪人よりも、大多数の人間のささいな苛立ちや悪意、そして差別が歴史を大きく変えてしまう。

それはいつの時代も変わらない残念な真実。長くヨーロッパで迫害されたユダヤの歴史やサラエボの紛争がそれを示します。(ハガダーを救ったけれど家族を失ったオズレンの言葉はすごく刺さります涙。)

けれど、どんなに辛い状況でも、幸せや希望を見出しまた未来に歩みだせる心の強さが人間にはあります。

ハガダーが作られ、守られた歴史はそれも証明しているのです。

 

著者紹介

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画像は以下の公式サイトから

Geraldine Brooks official author website

 

作者のジェラルディン・ブルックスという方はオーストラリア出身のジャーナリスト。ウォール・ストリートジャーナル紙でボスニアソマリア、中近東地域の特派員をつとめました。

ボスニア紛争の取材中、サラエボ・ハガダーという稀覯本の存在を知ったことが本作のきっかけとなりました。

 

本作の前に、ペストに襲われた17世紀のイングランドの村を舞台とした「灰色の季節をこえて(原題 Year of wonders)」若草物語のマーチ家の父を主人公とした「マーチの父 (原題 March)」を執筆しています。

「マーチ家の父」ではピュリッツァー賞を受賞しました。

 

現在、同じくピュリッツァー賞作家でジャーナリストの夫トニー・ホルヴィッツと、息子ともにアメリカで暮らしています。

 

まとめ

今回は「古書の歴史」を紹介しました。

ここに書ききれなかったくらい、まだまだ魅力のつまった傑作小説です。

本や映画、歴史が好きなら絶対おすすめです。

ぜひぜひ読んでみてください

では~