第92回アカデミー賞。
今回も数々の話題作、名作が並ぶ中、一際注目を集めた作品がありました。
それが韓国出身のポン・ジュノ監督による新作「パラサイト」です。
第72回カンヌ映画祭ではパルムドールを受賞し、アカデミー賞では6部門にノミネートされました。
しかし非英語圏の作品であることから「国際長編映画賞はとれても作品賞はないだろうな~」という声も多数きかれました。
ところが結果は作品賞、監督賞を含む4部門を受賞!!非英語作品としては初の快挙となり映画史に残る記録となりました。
そんなポン・ジュノ監督が2013年にハリウッドで制作したのが今回紹介する「スノーピアサー」です。
「パラサイト」と共通する「格差」というテーマを持ちながらも、「パラサイト」とは若干異なる見せ方をしてきます。(詳しくは後述)
ポン・ジュノ監督がソウルのコミックショップで偶然原作に出会いほれ込んで映画化を持ちかけたという本作。
やはり彼はこういったテーマに深く関心があるのでしょうね。
原作はフランスのグラフィックノベル「Le Transperceneige」
Netflixでドラマ化されており、5月25日から配信開始します。
すでにシーズン2の制作も決まっているもよう。
この記事をよんで気になった人はぜひNETFLIXに加入して観てくださいね!
基本情報
- 2013年公開
- 監督 ポン・ジュノ
- 原作 ジャン・マルク・ロシェット、ベンジャミン・ルブラン、ジャック・ロブ
- 脚本 ポン・ジュノ、ケリー・マスターソン
- 出演 クリス・エヴァンス、ソン・ガンホ、オクタヴィア・スペンサー、ティルダ・スウィントン他
あらすじ
2014年、地球温暖化を防止するため78カ国でCW-7と呼ばれる薬品が散布されるが、その結果、地球上は深い雪に覆われ、氷河期が再来してしまう。
それから17年後、かろうじて生き延びた人々は「スノーピアサー」と呼ばれる列車の中で暮らし、地球上を移動し続けていた。列車の前方は一握りの上流階級が支配し、贅沢な生活を送る一方、後方車両には貧しい人々が押し込められ、厳しい階層社会が形成されていた。
そんな中、主人公のカーティスと仲間たちは自由を求めて反乱を起こし、前方車両を目指すが……。
感想
ポン・ジュノワールド全開!痛烈に描かれる社会
17年前に地球が凍り付いてから、生き残った人類は巨大な列車にのって終わらない旅を続けています。
しかしまともな暮らしをできるのは一部の人々だけ。貧しい人々は列車の後方に押し込まれ、巡回に来る兵士に逆らおうものなら拷問や死刑にかけられます。
主人公カーティスと仲間たちは何度も反乱を起こしましたがその度に鎮圧されてきました。しかし、後方車両から子供たちまで連れ去られこれ以上はもう耐えられない状況に。
今回の反乱には、後方列車一体となって前方車両へのドアを突破し、列車の設計者であり最高権力者のウィルフォード氏を倒そうとしますが……。
そして密かにカーティス達にヒントを書いたメッセージを送ってくる人物の正体とは……!!
ポン・ジュノ監督といえば韓国の映画人の中でも一風変わった独特の作風で有名です。
この映画はフランスのグラフィックノベルが原作であり、ハリウッドの俳優を起用して作られましたが、やはり彼の作品らしい「(現実の)社会風刺」という要素は随所に見られます。
終盤、連れ去られた子供たちが欠損した列車のパーツの代用品として働かされていることがわかります。また、謎の支援者の正体やウィルフォード氏による支配構造の本当の姿が明らかに……。
このシーンはチャップリンの「モダン・タイムズ」を彷彿とさせます。子供たちが自我を見失い完全に歯車になったように、カーティス達も列車という社会の中で操られる部品に過ぎない。
人口が増えすぎなように定期的に「間引き」させ、自分たち権力者の周りは武装組織で守らせる。
この武装組織(警察)の立ち位置がカーティス達より「前」だけど、富裕層の車両よりは「後ろ」にあるというのがなんとも皮肉ですね。
あと、クロノールの匂いに思わずうっとりしちゃうところとか、戦闘になる直前新年を迎え武装組織も「ハッピーニューイヤー」と無邪気に喜んでしまうところとか、シュールなギャグが突っ込まれているのもポン・ジュノ監督らしかったですね笑
「縦」と「横」の格差社会
「パラサイト」では高低差を巧みに利用し、「縦」の格差社会を演出していました。
「スノーピアサー」では列車という「横」の社会の中でその格差を描いているんですね。
共通するのは、その格差の構造から抜け出すのはやはり簡単ではないということ。
そして搾取する側はその構造に無意識ですらあるという冷たい現実です。
それを象徴するのが前方車両の子供たち(列車のなかで生まれ育ち外の世界を知らない世代)の授業のシーン。こうやって育った子供たちが将来この社会構造を変えようとするとは到底思えないですよね……。
この映画を観た人は「パラサイト」も観て比較すると面白いのではないでしょうか。
キャスト陣の熱演
まずは主演のクリス・エヴァンス(オクタヴィア・スペンサーと合わせて「Gifted」の二人笑)。
反乱のリーダーとして常に冷静ですが、過去の自分の行いに消えない罪悪感を持っているカーティスの苦悩がよく出ていました。
そしてれポン・ジュノ映画ではお馴染みのソン・ガンホ。クロノール中毒のエンジニアで、コ・アソン演じる娘のヨナと共に列車内の案内役を務めるミンスを演じます。
序盤はコメディリリーフ 的な存在でしたが、彼がカーティス達に協力する本当の理由が明らかになります。
そしてこの映画でトロント映画批評家協会賞で助演女優賞を受賞したティルダ・スウィントン。
彼女自身は神秘的で中性的な容姿とオーラを持った人でそれを生かした役も多いですが、この映画ではメイソン大佐というメッチャむかつく嫌な女でしたね笑。本当に、カメレオン女優という言葉のあった役者さんです。
他にもアンドリュー役のユエン・ブレムナー(あの氷漬けのシーンは観ているこっちが苦痛なくらいでした)、ギリアム役のジョン・ハートなどの演技も素晴らしかったですね。
まとめ
今回は映画「スノーピアサー」をご紹介しました。
完璧とは言えずとも、原作の作られたフランスでも評価の高かった本作。
「パラサイト」を観て他のポン・ジュノ監督作品が気になった方、Netflixのドラマ版が気になる方などもぜひチェックしてくださいね。
それでは~