こんにちは~チェリーです。
今回は小説「みかづき」を紹介します。
「みかづき」は、一つの塾を舞台として、塾といものの名すら知られていなかった1960年代から、高度経済成長期を経て、少子化がすすみ、塾の経営が難しくなった2000年代後半までを描いた長編小説です。
本作は本屋大賞2位、中央公論文芸賞を受賞するなど、読者からも批評家からも高い評価を受けた作品です。
年配の方は日本の移り変わりにノスタルジーを感じ、若い方は自分が知らなかった日本の生活や教育の歴史に興味をもつのではないでしょうか。
ベテラン作家森絵都が描く「教育」小説をぜひお楽しみください!
あらすじ
昭和36年(1961年)。小学校の用務員だった大島吾郎は、放課後の用務員で子供たちに勉強を教えていた。ある時、蕗子という少女の母千明に見込まれ、共に学習塾を開くことに。これをきっかけに、何代にもわたる大島家の波乱万丈な人生が幕を開ける。吾郎と千明は結婚し、子供も誕生。ベビーブームや高度経済成長期などの時流にも恵まれ、塾は成長していくが、、、、、、。
著者紹介
作者の森絵都は1968年生まれ。シナリオライターを経て、1991年に「リズム」で講談社児童文学新人賞を受賞し、作家デビューしました。
重松清と並んで「中学入試の国語の問題によく出題される作家」でもあります。「宇宙のみなしご」や「アーモンド入りチョコレートのワルツ」などは、見覚えのある方の多いのでは。
入試によく出るということは、学校や塾の先生に薦められる作家でもありますね。
そんな方だからこそ、やはり子供をとりまく「教育」というテーマに引かれたのではないでしょうか。
その後2006年に「風に舞いあがるビニール袋」で直木賞を受賞します。以降、大人向けの小説にも作品の幅を広げています。
感想
「塾」を通して見える日本の教育界
タイトルの「みかづき」は、学校を「太陽」としてみた時の塾を現した言葉です。
最初にこの表現をつかったのは千明でした。
「私、学校教育が太陽だとしたら、塾は月のような存在になると思うんです。太陽の光を十分に吸収できない子どもたちを、暗がりの中で静かに照らす月。今はまだはかなげな三日月にすぎないけれど、かならず、みちていきますわ」
この言葉からわかる通り、元々日本の「塾」というものは、学校の授業についていけない子どもたちに勉強を教えるところでした。
戦後日本が豊かになるにつれ、高校や大学に進む人数が急増。でも学校の数は足りない。
限りある椅子を奪い合うために受験戦争が勃発するんですね。
すると今度は塾が学校に先んじた内容を教え、進学のための施設となっていく。
吾郎はそんな現実と自らの教育の理想の間で葛藤し、次第に経営の拡大を重視する妻の千明とも溝を深めてしまいます。
けれど千明の言い分も無下にはできないところがあります。
つぶれる心配のない公立校と違い、塾はそもそも金を稼がなくてはいけないビジネスなのです。
文部省の唱える方針もコロコロ変わるし、雇っている教師への給料や土地代の心配、競争相手の邪魔だってある。夢見るだけではやっていけない。
かつて教育への情熱を共有していた二人は、やがて袂を分かちます。
でもそこから二人の人生はまだまだ続きます。
時代は移り変わり、塾や学校のやり方も変わる。そしてそれらとも違ったまた新しい教育の形が生まれていき、、、、、、
大島家年代記
本作は大島家という一つの家族の物語でもあります。
私自身は大島家の孫世代である一郎よりさらに下の世代にあたるんですが、一郎が「クレセント」を設立した動機にはすごく共感しました。結局貧しい家庭の子供たちが教育の享受において不利を被っている。そんな現状は変えなくてはいけませんよね。
一郎は血のつながりのない祖父の吾郎に似て、人はいいのですが流されやすいヘタレの部分があります笑
大島家の女性陣はそれぞれパワフルな人物揃いなので余計そうみえるのですよね。
時として強引な手段も使いながら塾の経営に血道をあげる千明。
そんな母に複雑な想いを抱き公教育の現場を選んだ長女・蕗子。
千明に似た頑固さと懸命さをもち、塾業界で働きはじめる次女の蘭。
マイペースながらも、海外に飛び出す好奇心を持った三女の菜々美。
そして、そんな彼女らを死んでからも見守り続ける祖母の頼子。
赤の他人同士が家族になり、一度はバラバラになり、それぞれの道を不器用にでも一生懸命に進んだ末に、再び一つになるまでを追った物語なのです。
実写ドラマ
「みかづき」は2019年にNHKによってドラマ化されています。
原作よりもアップテンポで、キャラもよりコミカルに描かれていたそうですが、視聴者からの評判はかなり良かったそうです!!
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※本ページの内容は2020年四月時点のものです。
最新の配信状況はU-NEXTサイト、NHKオンデマンドサイトにてご確認ください。